2005年07月05日

OrCAD の記憶 - 後編

OrCAD SDT は非常に実用的なツールでしたが、多少変なところもありました。
最初、アレッと思ったのが部品を移動させるコマンドが見つからなかったことです。Block操作に移動のコマンドがあり、一個の部品を動かす場合にもBlock 化して動かしました。多分これが正しい使い方だと思いますが定かではありません。また、シンボルライブラリのグラフィカルエディタが大変使いにく、大抵の人はテキストエディタをつかって部品シンボルを作っていたように思います。

ソフトウェアのプロテクトも不十分なものでした。米国で売られていたこのは全くプロテクトが行われておらず、国内ではSDTⅢ以降ドングルでプロテクトされましたが、これを解除した違法なコピーも出回っていました。不謹慎な考え方ではありますが、このプロテクトのあまさが OrCAD の普及をいくらか後押ししたかも知れません。

DOS 末期に OrCAD 国内売り上げは、4 億円程度と聞いた記憶があります。多分この金額に大きな誤りは無いと思いますが、いくら OrCAD でも148,000円の回路図エディタだけではこんなには売れません。おそらく日本の市場規模では、回路図エディタは一ヶ月あたり 100-150本くらいしか売れないはずですので、のこりは 598,000 円で販売されていた OrCAD PCB の売り上げなのではないかと思います。OrCAD SDT と PCB が 4:1 もしくは 3:1 くらいで売れ、少なくとも PCB の売り上げで半分位はかせいでいたのではないでしょうか。

そこで、この OrCAD PCB がどんなに高性能なものだったかということになりますが、はっきりいってこれはとても仕事に使用できるレベルものではありませんでした。

浜松で会社を創業したころの話です。当時使用していた OrCAD SDT のイメージに惑わされ、ろくに評価もせず米国版 1495 ドルの OrCAD PCB を購入しました。そしてしばらくのあいだ悪戦苦闘しましたが、結局実用に供することなく手放しました。

当時から、ツールを見る目には自信を持っていましたのでこれはかなりショックな出来事でした。もっともこれは、私の能力不足による誤った評価かも知れません。とにかく、OrCAD のブランドイメージにはいっぱい食わされてしまったというのがその時の正直な印象です。

私はその後この反省から、ツールの評価に多くの時間を割くようになり、今では専門家を自認するようになってしまいました。

たぶん私と同じように、ブランドイメージに惑わされて OrCAD PCB を購入した人は多いのではないでしょうか?...というより、むしろこれが OrCAD PCB の普通の売れ方だったように思います。しかし、598,000円という価格は非常にいい値付けだったと思います。この価格は100万円の約半分、回路図エディタとハードウェアを加えても 100万円近辺で収まるという、手軽にPCB設計をしたい人にはとっても買いやすい価格設定でした。とにかく、ブランドイメージで商品が売れるというのは素晴らしいことです。

OrCAD 社もこの PCB ツールの品質に問題があることを認めていたようで、他社からOEM 供給を受けるべく、目ぼしいメーカに打診していたような形跡があります。Protel ではこの打診を断ったようです。結局この OEM 作戦は成功せず、後の Massteck 社の買収まで、高性能なPCB ツールは現れませんでした。Massteck 買収時にはすでに Windows 時代に突入しており、それまで販売されていた、OrCAD のPCB ツールは即座に Masstek の 製品(MaxEDA)に置き換えられ OrCAD Layout として販売されました。

回路図エディタのWindows 化は、社内開発によって行われたようですが、かなりリリースが遅れました。最初の OrCAD Capture R6 のリリースは、ちょうど ProtelSchematic 3EDA/Client)とほぼ同時期で、Protelより 3年 くらい遅れたように記憶しています。開発に時間がかかった理由は、OrCAD SDT のコードがアセンブラで書かかていたので Windows に移植することができなかったという説が有力です。いずれにせよこの遅れは Protel にとってシェアの獲得には大変幸運でした。

このころから Protel は統合化に路線を変え、一直線に突き進みはじめました、このことは OrCADProtel に奪われた回路図エディタのシェアを回復するのには都合がよかったかも知れません。

Windows 一辺倒の時代になってからはツールの統合指向がさらに強まり、OrCAD はこの分野で先行した Protel との競争にさらされています。どちらがその勝者であるかは申し上げることはできません。しかし少なくとも現在は、OrCAD 一人勝ちの状態でないことは確かなようです。
(OrCAD、OrCAD SDT、OrCAD CaptureはCadence Design Systems, Inc.の登録商標です)

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